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2016年6月13日 (月)

公認心理師、職能団体のゆくえ

周知のとおり、医師会や弁護士会などのように、特殊な技能や資格を持つ専門職が、その専門性の向上のために組織する団体のことを資格者団体と言ったり、職能団体と言ったりします。職能団体は、その専門職集団が社会や政治に対して意見表明を行ったり働きかけたりするための基盤にもなるので、その専門職のあり方に大きい影響を与えるものです。

さて、私たちは「公認心理師」の成立を応援してきましたが、その立場から、今回は公認心理師の職能団体のゆくえを考えてみたいと思います。

まず、公認心理師法は来年(2017年)の9月15日までに施行され、第1回試験は再来年(2018年)に行われるようです。ということは、公認心理師の第1号は2018年に誕生する予定であり、その時点で公認心理師の職能団体が準備されている必要があります。

ここで、応ブロとして、改めて公認心理師の職能団体(以後は、仮称の「日本公認心理師協会」、略して「公認心理師協会」とする。)についてどのような議論が可能かを整理してみたいと思います。以下は、特定の団体の見解によるものではなく、応ブロの筆者が例示のために独自に考えたものです。読者の参考になればと思います。

(1)既存の職能団体が公認心理師協会に移行する案(移行案)

「移行案」ですが、公認心理師法の成立にあたって中心的な働きをしてきた日本臨床心理士会(以後、「臨床心理士会」と略す。)が公認心理師協会に移行する案の議論が、すでに昨年秋に始まっているようです。(参考:「臨床心理士会の性急な名称変更というネット情報への疑問」)すなわち、日本臨床心理士会が定款変更によって「公認心理師協会」に名称変更し、そのまま公認心理師の職能団体を担う案です。中心を担うのは他の既存の職能団体であることも考えられますが、ここではこれを例として考えてみたいと思います。

ちょっとわかりにくいかもしれませんが、臨床心理士会が公認心理師協会に移行する場合、移行した「公認心理師協会」には「公認心理師のみ」と「公認心理師+臨床心理士」と「臨床心理士のみ」の3パターンの人が加入できることが考えられます。

では、臨床心理士会が公認心理師協会に移行する案のメリットとデメリットを考えてみましょう。

<移行のメリット>

・すでに心理専門職として全国に普及している臨床心理士の多くが公認心理師を経過措置で取得し、各現場で臨床心理士がそのまま公認心理師として働くという、もっとも混乱の少ない移行を、公認心理師協会(旧臨床心理士会)がリードしサポートして行うことができる。

・役員体制や事務局体制をそのままにして臨床心理士会が公認心理師協会に移行することによって、臨床心理士会の現体制がそのまま公認心理師協会のリーダーシップをとることができる可能性が高まる。

・臨床心理士会の組織力、役員体制、事務局体制などをそのまま公認心理師協会に引き継ぐことによって、公認心理師協会の立ち上げの資金力や労力を臨床心理士会が提供することができる。

・臨床心理士会がこれまで行ってきた、研修や委員会活動などをそのまま公認心理師協会に継承することができる。

・臨床心理士会がこれまで作ってきたネットワークやコネクションをそのまま公認心理師協会のものとして発展させることができる。特に、臨床心理士会の現会長が理事長を(※)している公認心理師の指定試験機関「財団法人日本心理研修センター」との強い結びつきを確保できる。(※2016.6.10現在、臨床心理士会と日本心理研修センターは専務理事も同じ方である。)

・臨床心理士会を母体として速やかに移行することによって、公認心理師の職能団体が複数できたり乱立したりして組織力が分散してしまうリスクを防ぐことができる。

・そもそも臨床心理士会の内部にさまざまな意見対立があるが、臨床心理士のみの人も含めて職能団体を公認心理師協会一本にすることができれば、その対立は組織に内包されることになり、表立った組織どうしの対立を防ぐことができる。

・「公認心理師のみ」の人も参加可能であることから、臨床心理士以外の心理専門職で公認心理師を取得できた人を迎え入れれば、一定の公平性が確保できる。

・「公認心理師+臨床心理士」の人は、公認心理師協会にだけ入会すれば良いので、2つ以上の職能団体に加入する負担がかからずにすむ。

<移行のデメリット>

・移行した公認心理師協会は、公認心理師の資質向上のことだけではなく、臨床心理士の資質向上や臨床心理士資格を今後どうするかについても担う必要があり、公認心理師の発展のための事業に専念できない。

・臨床心理士会から移行した公認心理師協会では、臨床心理士資格を持たない公認心理師の立場が弱くなる可能性がある。

・「臨床心理士」だけのための職能団体がなくなる。あるいは、新たに別の団体として作ることが必要になるが、そうなった場合、その担い手をどうするかが課題。

・公認心理師協会は、公認心理師の資質向上で手いっぱいになり、臨床心理士の職能向上にエネルギーを注ぐことは難しいかもしれない。

・臨床心理士会の公認心理師協会への移行に賛成できない臨床心理士が別団体として新たな臨床心理士会を作る可能性もあり、そうなった場合、従来の臨床心理士会内部の葛藤や対立がその意見対立がそのまま、「公認心理師協会VS臨床心理士会」のような対立として残ってしまう可能性が危惧される。

(2)既存の職能団体とは別に新たに公認心理師協会を設立する案(新設案)

「新設案」としては、公認心理師法成立に尽力した三団体の関係者が協力して、2018年の公認心理師第1号の誕生と同時に、公認心理師のみで公認心理師協会を設立することが考えられます。ここではそういう例を考えてみたいと思います。

その場合、中心的な団体である臨床心理士会から、事務局体制や資金を公認心理師協会に提供し、スムーズな設立を行うことも可能かもしれません。そうなった時には、臨床心理士会は公認心理師協会とは別の団体として新たな体制で再出発するということもありえるかもしれません。

新設案のメリットとデメリットは移行案の逆だと考えられますが、簡単に大事なところを挙げてみます。

<新設案のメリット>

・公認心理師法成立までの諸団体の葛藤からいったん離れて新しい歴史を始めることができる。

・公認心理師協会は公認心理師だけの職能団体となり、誰にとってもわかりやすく、また、公認心理師の発展のための事業に専念できる。

・臨床心理士資格を持っているかどうかに関わらず、公認心理師として新たに資格を取得した人たちが、公平に対等な立場で職能団体の運営に関わることができやすい。

<新設案のデメリット>

・ゼロからのスタートになり運営が軌道に乗るまで時間がかかる。

・既存の職能団体(例:臨床心理士会)の事務局体制や資金を活用しにくい可能性がある。

・既存の職能団体のネットワークやコネクションをそのまま使うことができにくいかもしれない。

・既存の職能団体に加入していてかつ公認心理師協会にも加入する人には二重の負担になる。

・・・簡単にまとめると以上ですが、いかがでしょうか。職能団体のことは、地味な話のようですが、公認心理師が今後どのように育っていくかの明暗を分けるほど大切なことと考えられます。当ブログでは、この話題に今後も注目していきたいと思います。みなさまの自由なコメントをお待ちいたしております。

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コメント

メリット、デメリットをまとめていただきありがとうございます。
大変わかりやすいです。

その上で、応ブロさん(という呼び名でいいのかな?)は
どうすべきだと考えてらっしゃるのか
ご意見をうかがいたいところです。

ロテ職人さん、執筆者です。
わかりやすいと言っていただいて嬉しいです。
執筆者の個人的な希望は、(2)新設案です。理由は、公認心理師を推進する立場から三団体での協調を大事にしてほしいのと、いっぽうで、臨床心理士には専門資格として役立ってほしいと願うからです。

>応援ブログ執筆者さん

素早いご返信、ありがとうございます。
やっぱりそうですよね。安心しました。

今回の心理士会の動きについては
もっと厳しく批判されるべきなのではないかと思っております…
と言うか少なくとも私は黙ってられないですね。

近日中に私もブログで触れたいと思いますが
その際にはこちらの記事を参照させていただきます。

そんなわけで今後ともよろしくお願いいたします。

国家資格化されれば医療現場での需要が爆発的に増えると思います。しかし現在の臨床心理士は教育学部の上の大学院で養成されていることからもお分かりのように「スクールカウンセラー」を想定しているように感じています。
医療現場で働くには現在よりもっと多くの医学的知識が必要とされるのではないでしょうか?現に精神医学の学会からもすでに要請されていますよね。

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